鹿児島地方裁判所 平成元年(行ウ)2号
原告
小田代ヒモ子こと小田代ヒモ
右訴訟代理人弁護士
亀田徳一郎
被告
鹿児島労働基準監督署長竹之内好治
右訴訟代理人弁護士
染川周郎
右指定代理人
宿理八郎
同
石川公博
同
染川洋一郎
同
富永民主男
同
増田知幸
同
三木俊男
同
藤崎隆一
同
坂元義文
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一申立て
一 原告
1 被告が昭和六〇年八月一六日付けで原告に対してなした、「原告に残存する障害は、労働者災害補償保険法施行規則別表第一に定める障害等級(以下「障害等級」という。)第一四級九号に該当するものと認め、同等級に応ずる障害補償給付を支給する。」旨の処分(以下「本件処分」という。)を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文同旨
第二主張
一 請求原因
1 原告は、昭和五七年四月二七日午後一一時五分ころ、当時勤めていた鹿児島県指宿市所在の指宿観光ホテル内売店(株式会社コピオン経営)での勤務を終えて帰宅するため、通勤用のバイクを置いてあった同ホテル駐車場へ向かう途中、前方からのライトに目がくらんで、コンクリート階段を転げ落ちる業務上の事故(以下「本件事故」という。)に遭い、右胸鎖関節亜脱臼、右臀部打撲傷、右鎖骨打撲皮下血腫の障害を負った(以下「本件負傷」という。)。本件負傷は、同五九年九月三〇日に治癒したが、原告には後遺障害が残った。
2 原告は、右後遺障害につき、被告に対し、昭和六〇年三月五日、労働者災害補償保険法所定の障害補償給付の支給を請求したところ、被告は、同年八月一六日、本件処分をした。
3 原告は、本件処分を不服として、同年一〇月一六日、鹿児島労働者災害補償保険審査官に対し審査請求をしたが、昭和六一年七月一五日、右請求を棄却され、さらに、同年一〇月九日、労働保険審査会に対し再審査請求をしたが、平成元年二月二八日、右請求も棄却された。
4(一) 原告は、本件負傷の後遺障害として、歩行困難、大後頭神経痛、三叉神経痛(右)、肩脚部・肩関節・その周囲・両脇の熱を伴う疼痛(両脇についてはヒリヒリする痛み)を主張しているところ、被告は、本件処分において、肩胛部・肩関節等の疼痛のみを後遺障害として認め、その余については本件負傷との因果関係がないとして、障害等級第一四級九号(局部に神経症状を残すもの)に該当すると認定した。
(二) しかしながら、原告主張の歩行困難、大後頭神経痛、三叉神経痛(右)も本件負傷に基づいており、被告の認定に係る障害に原告主張の右障害を総合すると、原告の後遺障害は障害等級第一四級九号を上回っている。従って、被告による本件処分は違法である。
5 よって、原告は、本件処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし3、4(一)の各事実は認め、4(二)の事実は否認する。
第三証拠
記録中の証拠目録の記載を引用する(略)。
理由
一 請求原因1ないし3、4(一)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、請求原因4(二)の事実について検討する。
1 前示争いのない事実に本件各証拠を総合すれば、以下の各事実が認められる。
(一) 原告(大正一二年一二月一四日生)は、昭和五七年四月二七日、請求原因1記載の態様で本件事故に遭い、転落地点から約二メートル下のコンクリート部分に、その右背部及び右臀部を強打したが、その際、頭部や頸部を打ちつけるようなことはなかった(証拠略、原告)。
(二) 原告は、翌二八日、指宿市内の今林整形外科病院において診察を受けた。その際の医師の診察によると、傷病名は右胸鎖関節亜脱臼、右臀部打撲傷、右鎖骨打撲皮下血腫であり、右胸鎖関節部から右鎖骨部中上三分の一にかけて、軽度の腫脹・圧痛があり、右臀部に打撲による軽度の腫脹が認められたが、顔面、右眼、右まぶたに外傷や異常所見はなく、右鎖骨や右骨盤のレントゲン検査においても異常は認められなかった。また、原告は、同病院に昭和五八年六月ころまで通院していたが、その間、右まぶたの障害について、自覚症状を訴えたり、他覚症状が認められたりしたことはなかった。なお、今林医師は、原告について幾分外傷ノイローゼのような感じを受けている(証拠略、原告)。
(三) 原告は、昭和五七年一〇月一二日、鹿児島大学医学部附属病院第一内科で、歩行時の右背部の鈍痛を訴えて受診し、右背筋痛との診断を受けた(証拠略)。
(四) 次いで、原告は、昭和五八年五月から同年九月にかけて、同病院第三内科で診察を受けた。その際の主訴は、右顔面(三叉神経第Ⅱ枝)のうずくような痛み、大後頭神経の圧痛及び両僧帽筋の緊張であり、大後頭神経痛、三叉神経痛との診断が下された。なお、原告は、右診察に際し、本件事故以前から、右眼にチックが生ずることがあった旨、医師に申告している(証拠略、原告)。
(五) 原告は、昭和五八年四月二日から平成元年一二月五日まで、鹿児島市立病院整形外科で診察を受けた。原告の主訴は、初診時には右肩胛部痛、背部痛、手のしびれ感であったが、その後、大後頭神経痛、三叉神経痛が加わった。昭和六〇年ころからは、右足の痛みも訴えるようになったが、歩行困難を訴えることはなかった。また、レントゲン検査の結果、第四、五頸椎間のずれが認められ、結局、同病院では、右胸鎖関節亜脱臼、右臀部打撲傷、肩胛関節周囲炎との診断が下された(証拠・人証略)。
(六) 被告は、本件処分をなすにあたり、昭和六〇年五月九日及び同年八月八日に、原告から事情聴取を行った。その際の主訴は、右肩・右頭・右顔のけいれん、右口のひきつり、右まぶたが開かないというものであった。また、併せて行われた鹿児島労働基準局地方労災医員の診断では、胸部、肩胛骨部のレントゲン検査で第三、四頸椎間と第四、五頸椎間にすべりが認められ、また、右眼瞼下垂が認められたものの、首の運動はほぼ正常であり、肩関節運動はやや制限されているが比較的良好と認められた(証拠略)。
(七) 原告による鹿児島労働者災害補償保険審査官への審査請求を受けて、昭和六〇年一一月一三日、同審査官が行った事情聴取において、原告は、「歩行に障害があり、びっこをひきながら歩いていると、ときどき股関節がはずれるのか、急に歩けなくなることがある。」旨訴えた(証拠略)。
2 右1の各事実を前提にして、歩行困難、大後頭神経痛及び三叉神経痛(以下「原告主張の症状」という。)が、本件事故に起因する後遺障害であるか否かについて判断する。
原告主張の症状は、いずれも中枢性の神経症状であるが、その原因としては外傷によるもののほか、心因性のものや加齢現象によるものが考えられるところ(人証略)、第一に、原告は、本件事故によって背部や臀部を強打したものの、三叉神経痛の原因となりうる頭部や顔面を打撲していないこと、第二に、本件事故の翌日の診察時における傷病名は右胸鎖関節亜脱臼、右臀部打撲傷、右鎖骨打撲皮下血腫であって、原告主張の症状に関る主訴は全くなく、その際の所見によっても顔面、右眼、右まぶたに外傷や異常はないこと、第三に、原告は、その後継続して数か所の病院で診察を受けているが、大後頭神経痛や三叉神経痛を初めて医師に訴えたのは、本件事故後一年を経過した昭和五八年五月ころであり、また、歩行困難については、更にその後である同六〇年一一月になってからであること、第四に、原告には、第三、四頸椎間と第四、五頸椎間にすべりがみられるが、これが原告主張の症状の他覚的所見とは認められないこと(人証略)、第五に、原告には本件事故前から右眼にチックという症状があり、これが、三叉神経痛に起因するチックである可能性があること、第六に、原告は大正一二年一二月一四日生まれであり、やや外傷ノイローゼ気味であることからすると、原告主張の症状が加齢現象によるものか、心因性のものであるという可能性もあることなどからすると、原告主張の症状が現在原告に存在するとしても、原告主張の症状と本件負傷との間に相当因果関係があると認めることはできない。
したがって、原告主張の症状は、業務上発生した後遺障害とはいえない。
3 以上検討したところによれば、原告が本件事故により被った後遺障害は、被告の認定に係る肩胛部・肩関節等の疼痛に限定され、しかも、その障害の程度は、前記1(六)のとおり、肩関節運動がやや制限されているにすぎないものと認められる。従って、本件負傷による後遺障害を、「局部に神経症状を残すもの」として障害等級一四級九号に該当すると認定した被告の本件処分は、相当というべきであって、これを違法とすべき事由は認められない。
三 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宮良充通 裁判官 原田保孝 裁判官 手塚稔)